アジアとヨーロッパの政治文化

欧米系のアジア政治体制論の多くは停滞的アジア論からの影響を免れず，トップリーダーやエリート層の権力分析論の限界があった．欧亜18カ国の各800名に対する世論調査を通して，市民の側から政治意識の諸相を欧亜2地域及び各国ごとに比較分析した，ユニークな政治文化論．アジア的価値論は果たして実態を体現しているか？ ■編集部からのメッセージ モンテスキュー，ヘーゲル，マルクス以来，ルシアン・パイに到るまで，欧米系のアジア政治体制論は宿命論的な停滞的アジア論からの影響を免れてこなかったし，それらの多くはトップリーダーやエリート層の政治過程を通した権力分析論でした． 本書は，市民の政治意識を日仏共同の世論調査を通して実証的に明らかにしようとする，ボトムアップ・アプローチに基づく，ユニークな政治文化論です． 2000年に実施された，欧亜18カ国市民を対象とした世論調査を分析しました．対象国は，アジア９カ国（日・韓・中・台・シンガポール・マレーシア・インドネシア・タイ・フィリピン）・欧州９カ国（英・仏・独・伊・西・葡・アイルランド・スウェーデン・ギリシャ）の計18カ国で，サンプル数は各国800名，質問は70項目ほどの選択形式です． ・市民はどのように自らを国家と関係付けているか？ ・欧亜２地域及び各国の政治文化の差異はどうなっているのか？ ・アジア各国の市民意識には「アジア的価値観」が明瞭に確認できるのか？ これらの問いに，市民の下からの視点から，帰納法的・実証的に答え，欧亜各国の政治文化の見取り図を示します．

序　文 第１章　序　論 1-1 市民の社会政治的価値観：The Civic Cultureとそれを超えるもの 1-2 市民の政治文化が政治システムを通じて均一になる，もしくは地域間の政治文化の差異は根本的であると仮定することはなぜ賢明でないか 1-3 市民の政治文化が各地域内で均一であると想定することがなぜ妥当でないか 1-4 政治文化研究の基本分析単位として国家を利用するのは依然として正しい：国家の消滅の告知は明らかに時期尚早である 1-5 市民の政治文化の分析は本巻の目的である「良き社会」と別の巻で扱う国家に対する支持の意識に対する調査の両者に基づいて行わなければならない 1-6 本書の構成 第２章　「アジア的価値観」の思想の本質と内容 2-1 東アジア及び東南アジアの価値観の特殊性の問題 2-2 文献ではどのようにアジア的価値観は記述されたか 2-3 アジア的価値観を操作化する 2-4 アジア的価値はシンドロームを形成するか？ 2-5 小　括 第３章　二つの地域における「基本的な社会的」価値はどう対立するか 3-1 二つの地域の基本的な社会的価値に対する全体的反応 3-2 地域差の範囲 3-3 地域内格差：地域的ばらつきの範囲と二地域の重なり範囲 3-4 基本的な社会的価値のパターン，人口統計の特性及び政治知識 3-5 小　括 第４章　西ヨーロッパに共通の政治文化とは？ 4-1 西ヨーロッパに共通の政治文化に関する議論 4-2 西ヨーロッパにおける国民の政治文化の「形」 4-3 小　括 第５章　東及び東南アジアに共通の政治文化とは？ 5-1 東及び東南アジアに共通する文化に関する議論 5-2 東及び東南アジアにおける市民の社会政治文化の形 5-3 小　括 第６章　国家の個別レベルにおける政治的文化 6-1 なぜ地域間及び地域内における差異は市民の社会的価値のパターンを説明する根拠とならないのか 6-2 基本的な社会的価値に関する回答者の単一国における大きな差異と比較的小さな地域的及び下位地域的な差異 6-3 国レベルにおける態度の変動 6-4 小　括 第７章　結　論 7-1 ２地域の政治文化の共通点及び相違点によって正当性を以て述べられること，また述べられないこと 7-2 「アジア的価値」:概念化から経験的現実へ 7-3 小　括 日本版解説　政治文化論の展望　　猪口　孝 １ 本書のねらい ２ 市民から見た実証的な国家論 ３ 比較政治文化 ４ 政治文化論の展望 ５ 結　論 参考文献 付章 I　アジア・ヨーロッパ調査の特徴 付章 II　アジア・ヨーロッパ18カ国調査のプロファイル 付章 III　第３章の再コード化の詳細 索　引

J．ブロンデル（Jean Blondel） 1929年生まれ．パリ政治学院，オックスフォード大学セントアントニー校修了，現在欧州大学院名誉教授，シエナ大学名誉教授．比較政治学を専攻．2004年Johan Skytte政治学賞受賞．著書に，The Nature of Party Government （共著，Palgrave，2000） ，Cabinets in Eastern Europe （共著，Palgrave，2001）などがある． 《著・訳》猪口　孝（いのぐち　たかし） 1944年生まれ．東京大学大学院修士課程修了，マサチューセッツ工科大学で政治学博士号を取得．現在，中央大学法学部教授，東京大学名誉教授，日本学術会議会員．政治学，国際関係論を専攻．1982年サントリー学芸賞受賞．著書は日英文で多数．最近の著書として，『国際関係論の系譜』（東京大学出版会，2007年，日本公共政策学会2007年作品賞受賞），共編著として『アジア・バロメーター　躍動するアジアの価値観――アジア世論調査（2004）の分析と資料』（明石書店，2007年），訳書としてデヴィッド・ヘルド編『論争　グローバリゼーション』（岩波書店，2007年）などがある．

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